
ブラジルには、日本の焼酎と同じように、さまざまな果実や植物を発酵・蒸留させて作られた蒸留酒(アグアルデンチ)がある。
カシューナッツの実がなる果実カジューから作られるアグアルデンチ・ジ・カジュー。ジャブチカーバの果実から作られるアグアルデンチ・ジ・ジャブチカーバ。
そして、サトウキビから作られる蒸留酒がアグアルデンチ・ジ・カーナ。このアグアルデンチ・ジ・カーナの中で、特定の条件を満たしたものが「カシャッサ」だ。
伝統的なアグアルデンチ(蒸留酒)だけでなく、2000年代以降もブラジル各地で、新しい製品の開発が進められている。アマゾン地方では、現地のフルーツ、アサイーやクプアスのアグアルデンチが開発されつつある。
2020年末に、カカオ農業の盛んなエスピリットサント州で開発されたのが、カカオの果実(カカオ・パルプ)から作られるアグアルデンチ・ジ・カカオだ。
カカオ由来のお酒といえば、焙炒後のカカオ豆を粉砕したものを蒸留酒に漬けたリキュールなど、カカオ豆から作られるものはこれまでにも知られているが、カカオパルプをプレスして得たカカオ蜜を蒸留して作られたカカオ100%のお酒は、世界でも珍しいという。
そんなカカオ蒸留酒(アグアルデンチ・ジ・カカオ)「カカワトル」を製造したのは、エスピリットサント州在住の情報通信分野のエンジニア、アンドレ・スカンピーニさん。
原料の故郷エスピリットサント州リニャーリス市はブラジル有数の優良カカオの名産地で、国際品評会でメダルを獲得したチョコレートもこの地から生まれている。
アンドレさんの妻の実家も40年以上カカオを作り続けている農園で、同農園はリニャーリス産カカオ生産の80%以上を担っているという。
実家のカカオに付加価値を与えられる新しいアイディアが何かないかと妻に相談されたスカンピーニさんは、自身が大好きな蒸留酒をカカオから作れないか、と思いつく。国内でもカカオから作られた蒸留酒はおそらく前例がないため、実現すれば、リニャーリスのカカオがより注目されると考えた。
さらに、カカオ農家で、チョコレート産業のために使うのはカカオの豆(種)のみで、果肉はカカオ豆を発酵させるために使用されるほかは、大半は廃棄されていたという。蒸留酒の原料となる糖を含んだ部分はまさにこの廃棄されていた部分なので、ここから蒸留酒を作ることができれば、サステナブルな事業となる。
「カカオの果実は、種しかチョコに使われていません。カカオ生産者は、なんとかして果肉など他の部分が有効に使えないかと考えていたのです。私は、自分の蒸留の知識を利用して、いくつかの実験をしてみました。品質が良く、持続可能な製品を作ろうと考えたのです」(アンドレ・スカンピーニさん)
酒造りの環境には恵まれていた。
銅製蒸留器を使った手づくりカシャッサ(クラフト・カシャッサ)はブラジル国内のあらゆる地方で作られており、アンドレさんが暮らすリニャーリスにも蒸留所があった。しかもリニャーリスは、国内外の品評会でメダルを受賞する人気銘柄の産地でもある。
とはいえ、前例のないカカオ酒づくりは、構想から実現まで時間を要した。
「カカオの研究家でさえも、この果実からアルコール飲料を作ることについて、知識はなかったのです。彼らの知識は、種を発酵してチョコレートを作る方向だけに向けられていたのです。いろいろな研究や、テストを繰り返すうち、ようやくこれだというレシピにたどりつきました」(アンドレ・スカンピーニさん)
そして、地元の蒸留所プリンセーザ・イザベウの協力を得て、試行錯誤の末、ブラジル初のアグアルデンチ・ジ・カカオが完成した。製品はアステカ語で“苦い汁”を意味する「Cacahuatl(カカワトル)」と名付けられた。
日本へは2024年に上陸した。輸入元・問い合わせはボンペックス・ジャパン(https://www.bompexjapan.com/)まで。武蔵屋などで流通している。東京インターナショナルバーショー(http://tokyobarshow.com/about.html)への出品は今回が初となる。
